トランジスタは電気信号の増幅機能やON/OFFのスイッチ機能を持つ半導体部品です。1940年代末の実用化を機に、半導体産業の成長は大きく加速しました。半導体素子からの信号を外部へ伝達するために使われるのがボンディングワイヤです。ワイヤボンディングによる接続方法は1950年代後半に米国のベル研究所の研究者達により開発されました。当時から金がボンディングワイヤの材料として使用されていました。
50年に渡りボンディングワイヤに使用されてきた金は、高性能であるものの非常に高価でした。パソコンをはじめとする電子製品の高機能化に伴い半導体も複雑になり、金の使用量は増えるばかりでした。2000年代の金価格の高騰と相まって「金からの置き換え」が叫ばれるようになりました。2004年頃に、新日鉄(現:日本製鉄)先端技術研究所において銅を使ったボンディングワイヤの開発に着手。長らく革新が得られなかった特殊領域であり、その開発には何度も挫折しかけました。
新日鉄グループは、銅芯にパラジウムを被覆した「EX1」の開発に成功しました。髪の毛の5分の1程度の細さ(15~30μm)しかないワイヤの、さらに外側にナノレベルでパラジウムを被覆することで、従来の銅ワイヤでは不可能であった高い接合性と耐食性を実現しました。
2007年から日鉄マイクロメタルにおいて、量産化に向けた研究開発が始まりました。新日鉄マテリアルズ(現:日鉄ケミカル&マテリアル)の子会社として始動した当社は、半導体の接続材料メーカーとして、海外展開を当初から視野に入れ、製品のグローバルスタンダード化を目指しました。また、金価格の高騰を受け、「金から銅への置換」の必要性は増す一方でした。
ナノレベルの制御技術により品質の安定化を実現、EX1の販売を開始しました。パラジウム被覆の厚さは、ワイヤの直径の数百分の一以下であり、それを常に均一な状態にしなければなりません。開発には死の谷(※)をも経験しました。開発者の情熱と不屈の精神により死の谷を乗り越えた「EX1」はパラジウム被覆銅ワイヤという新たな市場を開拓し、世界のデファクトスタンダードになりました。
※死の谷…開発された新しいものを製品化する際に課題となる難関
市場ニーズに合わせて、EX1の後継シリーズを次々と開発・販売しています。EXシリーズは今も進化し続けています。